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スウェーデン「国内の21地域中で19地域で助産師が不足、国の資金援助が必要」

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国内の21地域中で19地域で助産師が不足、国の資金援助が必要 

11月3日のスウェーデン共テレビSVTによると、国内の多くの場所で出産看護の改善が急務となっていると報じています。

 

記事によれば、これはスウェーデン医療協会の意見であり、労働環境が改善されない場合には、大量の辞職者がでると警告しています。

 

助産師でストックホルムヘルスケア協会の会長であるエマジョンソン氏は、

今、壊れています。もう耐えられません、

と述べています。

 

社会庁によると、スウェーデン国内の21ある地域の中で19の地域では助産師が不足しています。

 

ストックホルムでは、最近、出産管理者と 助産師が職場環境と資源不足に抗議し辞めていきました。

 

ヴェステルボッテン県ではスタッフが不足しているため、リュックセレ市の助産婦クリニックはクリスマスと新年の3週間休業する必要がありました。

 

このようなひっ迫した労働環境に対する報告例は、ルンド市、ヨーテボリ市のオストラ病院やウメオ市での出産にも当てはまっています。

 

一般的に助産師は仕事を辞めていき、スウェーデン国内の南部から北部にわたり厳しい状況です。ストックホルム助産師団体では今それが噴き出ている状況です。しかしこれはどこでも起こりえます。

とヘルスケア協会の助産師と組合理事会メンバーであるオーサ・ムーナ氏は語っています。

 

ここでは 助産師が妊婦に寄り添えるような、本当に最高の仕事をすることはできません。今日では、助産師1人あたりに3〜4人の出産を受け持つ必要があります、

とオーサ・ムーナ氏は語っています。

 


要件:さらに高い賃金とより良い労働環境

スウェーデン医療協会の側から見ると、最も重要な要件は多額の賃金投資です。

労働環境は非常に重要ですが、問題を改善するためには助産師の数を増やす必要があり、良い労働環境で( 助産師)を引き付ける必要があります。とりわけ良い賃金開発を通じて改善することができます。

とオーサ・ムーナ氏は語っています。

 

スウェーデン医師会によれば、産科ケアの責任者として自治体を指摘するだけでは十分ではありません。

 

スウェーデン医師会は、政府が自治体リソースの利用を監督するような国家調整役を任命することを望んでいます。

 

スウェーデン国内の)どこに住んでいても同じように安全に感じるためには、実際の投資が必要です。国家資金国の調整役が必要です。

とオーサ・ムーナ氏は語っています。

 

 

社会問題大臣:大規模な投資が行われている

ただ社会問題大臣のレナ・ハレングレン氏は、すでに政府が資金要請したことをSVTにコメントで記しています。

国の観点からいうと多大な投資が行われています。 2015年以来、政府は76億クローナ(約1,011億円)産婦人科看護や女性の健康増進に割り当て、2022年にはさらに15億クローナ(約199億円)を投資しています。

 

この資金はとりわけ、妊娠から出産、産後のアフターケアまで一連の看護のおける自治体の活動に充てられます。

 

社会庁は、産科医療に関する国内ガイドラインの策定を委託されています。

また政府は知識ベースの看護開発を支援するため、いくつか政府業務を決定しました。

 

ただヘルスケア協会の助産師オーサ・ムーナ氏によると、これまでに政府によりされた投資は役に立っておらず、

スウェーデンの選出代表の助産師と連絡をとりましたが、誰もこうした(政府の)活動に加わった 助産師を知らないです。

このお金は助産師に投資されていません。

と述べています。

 

さらにSVTの記事によると、助産学校卒業後に産婦人科で働くことを考えている学生はクラス31人のうち4人しかいないそうです。

 

www.svt.se

病室不足!年間929人もの妊婦が産婦人科病棟で出産できず、新生児1名死亡!」

また2021年5月6日のスウェーデンの新聞「アフトンブラーデット」によれば、

産婦人科病棟における病室不足により、産婦人科病棟での出産をすることができず、いくつかの事例において妊婦や新生児の安全が損なわれていることが記されています。

 

なかには妊婦が帰宅することを余儀なくされ家のシャワーで子供を出産しました例もあるとのことです。さらに別の妊婦は出生時に病室を確保できなず、死亡してしまった新生児もいた事を報じています。

 

2020年のストックホルム県において28,362人の子供が生まれましたが、そのうち妊婦929人が出生時の病室確保できなかったとのことです。

 

さらに80人の妊婦が出産時の病室が確保できず、別の県の病院へ搬送されたとアフトンブラーデットは報じています。

 

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出産に立ち会う 助産師の不足は、妊婦、新生児の生命にもかかわるので大きな問題です。

 

そのため政府はこうした産婦人科ケアの改善にすでに多額の資金を投入していると述べていますが、このSVTの記事における実際の助産師の証言からでは、政府からの資金が助産師を増やすのに役にたっていないと記されています。

 

政府は助産師の確保に多額の税金を費やしているものの、実際には役に立っていないのであれば、税金の無駄遣いでもあり、また別の問題にもつながりそうです。

 

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スウェーデンと日本の問題解決方法の違い

またさらに言えば、このヘルスケア協会の助産師と組合理事会メンバーであるオーサ・ムーナ氏も、問題解決には国家による資金が必要と発言しています。

 

リソース・エフィシエンシが根付いているスウェーデンにおいては、問題解決にはまずお金が先であることがわかるはずです。

 

日本では一般的にお客目線からの視点の効率である、「フロー・エフィシェンシー」が重要視されていますが、欧米ではコスト視点の効率「リソース・エフィシェンシー」が重要視されており、基本的な効率に対する考え方が違います。

日本の問題解決方法:

解決策の検討=>予算(リソース)の割り当て

スウェーデンの問題解決方法:

予算(リソース)の割り当て=>解決策の検討

 

ただスウェーデンの問題解決方法で助産師不足への解決策を考えた場合、投じられた資金により解決策が変わっていってしまいます。

 

日本の経済学者である宇沢弘文氏は著書「社会的共通資本」の中で

医療を経済に合わせるのではなく、経済を医療に合わせるのが、社会的共通資本としての医療を考えるときの基本的視点である。

と記しています。

 

この考えからですとスウェーデン医療における問題解決方法は、医療を経済に合わせており、医療を考えるときの基本的視点から反れているようにもみえます。