労働生産性とタックスヘブンの関係:EUによる今世紀最大の税制改革
日本は現在少子高齢化社会となり、減少した労働力不足を補うため、労働生産性の向上が叫ばれています。
しかし、2023年における日本の労働生産性は189カ国中で47番目、OECD加盟国38カ国中でも27番目と低い位置にあります。
このため岸田内閣では「新しい資本主義」が掲げら、三位一体の労働市場改革の指針の中では、労働生産性の上昇が目指されています。
そのために、成長分野への円滑な労働移動を進めるため、個々の企業内だけでなく、産業を越えて国全体の規模で官民が連携して、働き手のスキルアップや人材育成策の拡充を図られています。
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和4年6月7日)のフォローアップ
内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/sankou2023.pdf
労働生産性の高い国々とタックスヘブンの関係
しかし、日本の労働生産性が低いのは、日本人の働き方に問題があるからなのでしょうか?
日本では2023年3月時点での普通法人の法人税の税率は23.2%となっています。
しかし、世界にはタックスヘブンと呼ばれ、税金が非常に低い、また全くない国々があります。
こうしたタックスヘブンを利用し、資産家や企業は租税回避をし資産を蓄えていたことが、2016年に国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)によるパナマ文書やパンドラ文書により明らかとなりました。
ヨーロッパにもこうしたタックスヘブンと呼ばれる国は存在しています。
ヨーロッパでタックスヘブンと呼ばれる国は、ルクセンブルク、アイルランド、スイス、ベルギー、オランダの国々です。
こうした国々は法人税を低くすることで、企業の誘致を行っています。
実際にグーグルやフェイスブックなどの巨大企業は法人税が低いアイルランドに租税回避のためオフィースを設けています。
それでは労働生産性の高い上位15カ国とタックスヘブンの国々とを比較してみましょう。
労働生産性の高い上位15カ国とタックスヘブンの比較
この比較表を見ると、労働生産性の高い上位15カ国の大半が、タックスヘブン、もしくは世界平均の法人税23%以下、または産油国であることがわかります。
反面、日本の法人税は、23.2%であるため労働生産性の高い国と比べると高い法人税であることがわかります。
この表からの分析では、日本企業が労働生産性を高めるため、働き方を変えて企業努力をしても、労働生産性の高い国のように、国際企業が進出がなされないため、労働生産性が高まらないのは当然であるのです。
ただ言い換えれば、労働生産性が高い多くの国々は、こうした国々では働き方が良いとか、国家としての実力を伴っているから労働生産性が高いわけではなく、資産家の投資を呼び込み、巨大企業を誘致しやすいタックスヘブンとも呼ばれる税制度を導入することで成り立っています。
そして、これにより富を持つものがさらに富を得る状況を作り出し、世界の貧富の格差を拡大ています。
さらに、労働生産性が高くGDPも高いからと言って、国民の福祉が充実している国々であるわけでもありません。
名目上高い労働生産性やGDPを生むものの、実情として金持ちの富をさらに増やし、貧富の格差の拡大を生む状況をも生み出しています。
そのため、一概に日本の労働生産性が低いからといって、世界の労働生産性と単純に比較するのは如何なものなのでしょうか?
タックスヘブン問題とEUの今世紀最大の新たな税制改革
実際にタックスヘブンや低い税率は世界的に大きな問題となっています。
これに対してEUの欧州委員会では2021年12月、適切な税金を払わずタックスヘブンを利用した租税回避を防ぐため、
今世紀最大の改革と呼ばれる、OECD諸国にあるタックスヘブンの国々にも追加課税を取るという今世紀最大の改革を出しました。
この案はタックスヘブンである国々にある企業でも最低15%の国際最低税を導入することが決まりました。
これにはヨーロッパのタックスヘブンであるアイルランド、ルクセンブルク、スイス、ベルギー、オランダなどの国々も含まれています。
「OECD、国際的な最低法人税率15%の国内実施に向けたBEPS第2の柱のモデル規則を発表」
https://www.oecd.org/tokyo/newsroom/oecd-releases-pillar-two-model-rules-for-domestic-implementation-of-15-percent-global-minimum-tax-japanese-version.htm
yle.fi
フィンランドで新税制改革導入
2024年1月14日のフィンランド公共放送「ウレ」によれば、フィンランドでは実際にこのEUの税制改革を2024年1月から導入し、法人税が低い国で15%以上の法人税を払っていない場合、フィンランドの法人税20%との差額分を企業から徴収する事となりました。
「ウレ」によれば、このEUでの税制改革は完全にタックスヘブンを無くすことはできないものの、租税回避を減らす1つの手段になると報じてています。
しかし今後、他の国々でもこの新たな新税制改革が導入され、徐々に租税回避する企業や資産家が減り、世界の格差の拡大が減ることが期待されています。
yle.fi
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