スウェーデン 福祉大国の深層 続報!

『スウェーデン 福祉大国の深層』を水曜社より商業出版(政府刊行物)して頂けました。読者の方からの要望を頂きスウェーデンの時事ニュースを主な内容とし、日本にも役立ち社会貢献にもつながるようなブログを記させて頂きます。

ミスリード報道!? 日本の再犯者率と北欧の再犯率

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日本の再犯者率のミスリード報道!?

2016年11月11日の朝日新聞では、「刑法犯の検挙人数、戦後最少を更新 再犯者率は過去最高」という見出しで報道されています。
 
記事によれば、
法務省は11日、昨年の犯罪件数や傾向などをまとめた「犯罪白書」を公表した。刑法犯の検挙人数は23万9355人で、3年連続で戦後最少を更新した。このうち再犯者数は11万4944人。前年より3千人以上減ったが、検挙人数に占める割合でみると、過去最高の48・0%だった。犯罪をさらに減らすには、再犯防止が課題となっている。
 法務省は11日、昨年の犯罪件数や傾向などをまとめた「犯罪白書」を公表した。刑法犯の検挙人数は23万9355人で、3年連続で戦後最少を更新した。このうち再犯者数は11万4944人。前年より3千人以上減ったが、検挙人数に占める割合でみると、過去最高の48・0%だった。犯罪をさらに減らすには、再犯防止が課題となっている。
 法務省は11日、昨年の犯罪件数や傾向などをまとめた「犯罪白書」を公表した。刑法犯の検挙人数は23万9355人で、3年連続で戦後最少を更新した。このうち再犯者数は11万4944人。前年より3千人以上減ったが、検挙人数に占める割合でみると、過去最高の48・0%だった。犯罪をさらに減らすには、再犯防止が課題となっている。

と記されています。

 

そのため一見すると日本の再犯者が増加しているように感じます。

 

ただ記事には

刑法犯の検挙人数は2005年から減少認知件数も13年連続で減り、昨年は戦後最少の109万8969件だった。刑務所に入るのが2度目以上の「再入者」は1万2803人で、前年より171人減。受刑者全体に占める再入者の割合は59・4%だった。

刑法犯の検挙人数は2005年から減少。認知件数も13年連続で減り、昨年は戦後最少の109万8969件だった。刑務所に入るのが2度目以上の「再入者」は1万2803人で、前年より171人減。受刑者全体に占める再入者の割合は59・4%だった。

とも記され、刑法犯の検挙数は2015年において最少であるとも記されています。

 

www.asahi.com

 

2016年11月15日のヤフーニュースでは「再犯者率、過去最高」のカラク犯罪白書でミスリード報道相次ぐ」という見出しで次のように報じています。

朝日新聞11月11日、デジタル版で「刑法犯の検挙人数、戦後最少を更新 再犯率は過去最高」と見出しをつけ、法務省が発表した今年度の犯罪白書について報じた。しかし、見出しの「再犯率」は「再犯者率」の誤り再犯者率とは、刑法犯で検挙された者のうち再犯者が占める割合を意味し、前歴のある者のうち再び犯罪を行った者の割合(再犯率)とは全く異なる。実際は、検挙された初犯者が再犯者を上回るペースで減少しているため、検挙された再犯者の実数は減っているが、「再犯者率」が上昇しているにすぎない。

 

再犯者率の上昇」という数値上の現象は、論理的に、(1)初犯者も再犯者も減っているが、初犯者の減り方が上回っている場合、(2)初犯者は減っているが、再犯者が増えている場合、(3)初犯者も再犯者も増えているが、再犯者の増え方が上回っている場合、の3通りがあり得る。近年の現象は(1)によるものである年々、検挙される初犯者が、再犯者を上回るペースで減少しているため、その結果として再犯者率は上昇し、毎年「過去最高」を更新し続けているのである。この相対的な比率の現象をとらえ、再犯者率が過去最悪(過去最高)」というのは、限りなく誤報に近いミスリードではないだろうか

 

朝日新聞だけでなく、読売新聞やNHKニュースも、検挙された再犯者が減少していることに触れずに「再犯者率」あるいは「再犯者の割合」が過去最高になったと報じていた。

 

このヤフーニュースの記事から再犯者率が上昇しているのは、初犯者も再犯者も減っているが、初犯者の減り方が上回っているためであり、日本では刑法犯が減少傾向であることがわかります。

 

news.yahoo.co.jp

日本の再犯者率と北欧の再犯率との大きな定義の違い

しかしこうしたミスリード報道により、日本では再度犯罪を犯す者があたかも増加しているように感じてしまいます。
 
そしてときには人道主義の刑務所でありながらも再犯率が低いノルウェーや北欧諸国と日本の再犯者率とを比較することもあり、日本での再犯は北欧での再犯と比べて多いと考える事もあるかもしれません。
 
日本の再犯者率は、法務省の令和2年版再犯防止推進白書にある「法犯検挙者中の再犯者数及び再犯者率」によれば平成26年では47.1%となっています。

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令和2年版再犯防止推進白書 再犯者率
北欧諸国の2014年の出所2年以内の再犯率スウェーデン刑務所・保護観察(kriminalvarde)によると、
デンマーク34%フィンランド35%アイスランド20%スウェーデン34%であり、ノルウェーは20%(ノルウェー更生サービス(kriminalomsorgen)2015年より)となっています。

 

スウェーデン刑務所・保護観察(kriminalvarde) 北欧5カ国:施設を出てから2年以内の再犯率の統計

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https://www.kriminalvarden.se/globalassets/publikationer/kartlaggningar-och-utvarderingar/nordisk-statistik-2012-2016.pdf
 
ルウェー更生サービス(kriminalomsorgen) 施設を出てから2年以内の再犯率 20%(2015年)
 
これらの数値を単純に比較すると、一見では日本の再犯者率(47.1%)が北欧諸国の再犯率と比べると非常に高くみえます
 
しかしここで日本の再犯者率が北欧諸国の再犯率には定義に大きな違いがあるのです。
 
それでは日本の再犯者率と北欧でいう再犯率とは定義はどのようなものでしょうか
 

日本の再犯者率の定義

法務省『令和2年版再犯防止推進白書(令和元年度再犯の防止等に関する施策)』
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「再犯者」は、刑法犯により検挙された者のうち、前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、再び検挙された者をいう。
 
再犯者率」は、刑法犯検挙者数に占める再犯者数の割合をいう。
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このように再犯者率とは、刑法犯で検挙された者のうち再犯者が占める割合を意味し、前歴のある者のうち再び犯罪を行った者の割合(再犯率)とは全く異なります

 

基本的な北欧の再犯率の定義

スウェーデン刑務所・保護観察(kriminalvarde)によると、北欧の再犯率の定義は基本的に北欧の再犯率出所から2年以内の再犯率となっています。

 
しかしスウェーデン刑務所・保護観察(kriminalvarde)では、北欧各国でもその定義に違いがあるため、再犯率を直接比較ができないと記しています。

 
Kriminalvården『NORDISK STATISTIK För kriminalvården i Danmark, Finland, Island, Norge och Sverige 2012-2016』
(Observera att återfallssiffrorna inte är direkt jämförbara mellan länderna, se definitionen för återfall.)
 

スウェーデン再犯率の定義

スウェーデン犯罪統計ブロ(Brå)によるスウェーデン再犯率の定義を要約すると、
初めての出来事(刑務所からの出所、少年院からの出院、法医精神医学監督からの解放、電子制御による監視の完了、裁判所による決定またはその他の裁決による有罪判決)から1年、2年、3年以内に再犯した者の統計データを取って再犯率を取っています。
 
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 Brå『Återfall i brott』2021-05-26
Med återfall i brott avses i statistiken nya lagakraftvunna brott, som följer på en persons ingångshändelse under en speciell uppföljningsperiod. Ingångshändelser definieras som frigivningar från anstalt, utskrivningar från sluten ungdomsvård, avslutad intensivövervakning med elektronisk kontroll samt lagföringar för andra påföljder genom lagakraftvunnen dom eller beslut från åklagare. I statistiken redovisas återfall i brott inom ett, två och tre år räknat från datumet för ingångshändelsen.
 
Brå『Recidivism』
¹) An initial event is a release from prison, discharge from closed institutional youth care, discharge from forensic psychiatric care, completed intensive supervision with electronic monitoring or court sentencing with legal force or conviction decisions with other sanctions.

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kon-51.hatenablog.com 

スウェーデン国内の再犯率統計にも違いあり

またスウェーデン国内のスウェーデン刑務所・保護観察(kriminalvarde)による再犯率スウェーデン犯罪統計ブロ(Brå)による再犯率でさえも若干違いがあり、スウェーデン国内でさえ再犯率定義や統計方法に違いがあることがわかります。

 

 
スウェーデン犯罪統計ブロ(Brå)による出所2年以内再犯率(2014年) 35

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スウェーデン刑務所・保護観察(kriminalvarde)による出所2年以内再犯率(2014年) 34
 

ノルウェー再犯率の定義

ノルウェー更生サービス(kriminalomsorgen)には次のようにあります。
釈放後2年以内に犯された犯罪に対する施設で新たに開始された懲役刑として測定された再犯

日本の再犯者率と北欧の再犯率の比較と結論

基本的に北欧諸国では出所から2年以内の再犯率を統計として出しています。
しかし北欧各国でさえ定義に違いがあるため再犯率を直接比較できないことがわかります。
 
日本の再犯者率は刑法犯で検挙された者のうち再犯者が占める割合を意味し、前歴のある者のうち再び犯罪を行った者の割合(再犯率)とは全く異なります
 
そのため日本の再犯者率と北欧の再犯率は大きく定義が異なるため、直接比較することは全くできないと考えられます。
 
 
ただどうしても日本の再犯者数と北欧の再犯者数を比較したい場合、日本の出所受刑者の2年以内再入率と、北欧の出所2年以内の再犯率を比較するほうが近いと考えられます。

日本の出所受刑者の2年以内再入率

平成26年(2014年)での日本の出所受刑者の2年以内再入率はでは18.5%となります。

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法務省 令和2年版再犯防止推進白書

出所受刑者の2年以内再入者数及び2年以内再入率

北欧諸国の出所2年以内の再犯率 

スウェーデン刑務所・保護観察(kriminalvarde)が示す北欧諸国の2014年の出所2年以内の再犯率は、
デンマーク34%フィンランド35%アイスランド20%スウェーデン34%であり、ノルウェーは20%ルウェー更生サービス(kriminalomsorgen)2015年より)となっています。
 
定義が異なるため直接比較することはできませんが、この統計データから日本の出所から2年以内の再入率のほうが、北欧5カ国の出所2年以内の再犯率と比べると低いようにもみえます。
 
フィンランドの5年以内の再犯率を参考までに記すと、実際にフィンランド2014年の再犯率は、スウェーデン犯罪統計ブロ(Brå)によると出所2年以内では35でしたが、
Rikosseuraamus(フィンランドの刑事制裁局)によると出所から5年以内では57となっています。
 
 
恐らく他の北欧諸国も出所5年以内再犯率などを調査すれば、出所2年以内より高い再犯率となると考えられます
 
法務省の令和2年版再犯防止推進白書にあるように日本の再犯者数は年々減少傾向にあり、直接の比較はできませんが北欧の再犯率と比べても遜色なく、あまつさえ低くさえも見えるのではないでしょうか。

 

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