
最近、スウェーデンでは道路工事が増加しています。しかし、その作業は日本人の感覚からすると驚くほど長期間にわたり、非常に非効率なものにみえるかもしれません。
例えば、数百メートルの短い道路修繕工事にも道路を封鎖して数カ月を費やすことが一般的です。
こうした工事を注意深く見ていると、部分的に作業をしては中断し、また別の場所で部分的に作業するという繰り返しがされ、道路が数週間封鎖し続けても一向に作業が終わらず、工事全体が無駄に長引いています。
小さな子供でさえ「一度にまとめて直せば早く終わるのに何で?」と不思議がるほど遅いスウェーデンの工事作業の事情です。
日本とは大きく違う、スウェーデン(欧米諸国)の効率の考え方
一般的に日本の工事では、「迅速に作業を終え、不必要なコストを削減する」ことが基本であり、必要な部分を集中的に修理して作業時間を最小限に抑える努力が徹底されています。
しかしスウェーデンや西ヨーロッパ諸国では、その効率の考え方が日本とは全く違っています。
一般的に西欧諸国では市民のサービスや利便性よりも『利益の追求』が優先される事が多くなっています。
そのため作業工程が必要以上に増やし、人員や時間を増し、逆にコストを増すことが重要となっているのです。
たとえば、工事現場によく設置されている工事用フェンスを例にみてみましょう。
一般的に日本では工事現場では比較的軽いフェンスが使われており、作業員1人であっても手で数分あれば簡単に移動できるはずです。多くの日本人はこの工事フェンス移動に時間を費やす必要性があるとは考えもしないと思います。

しかしスウェーデンでは工事現場のフェンスを移動するだけでも、非常に重いフェンスが使われており、大型のショベルカーを使い1時間ほどかけてフェンスを移動させることもあります。またその周りでは、複数の作業員がただ作業の様子を眺めているといった風景もよく目にします。

こうした作業をはじめて目にした日本人は不思議だと感じる人も多いかと思います。
しかし日本人にとって必要なさそうな作業ですが、工事を受注した民間の建設会社としては、工事時間を長期化させ、工事費用を増して利益を増すことができるのです。また人の手でできる作業でもあえて重機を使うことでコストの上乗せもできるのです。
そのため、スウェーデンでは仕事ができず工事が遅いのではなく、企業が意図的に工事を遅らせ、必要以上の人材、重機の利用することでコストの水増しを行い利益を増しているのです。
同じコスト重視といっても、コスト削減を迫られた日本のコスト重視型の効率とは、意味合いも大きく違うのではないでしょうか?
日本人の顧客目線重視の効率から考えると非常に非効率な作業でありますが、スウェーデン人の考える利益重視の効率からですと、利益を増すとても効率の良い仕事の仕方なのです。
*この日本人のいう効率「フロー・エフィシェンシー」と欧米のいうコスト重視の効率「リソース・エフィシェンシー」との違いについては、「スウェーデン 福祉大国の深層」細かく説明しています。
リンク
極度な地方分権化による弊害、大雑把な予算管理
ただもちろん、この工事費は自治体に請求されます。
ではなぜこうした工事費の長期化、必要以上の経費となっても、工事を依頼する自治体はこうした企業に発注し続けるのでしょう?
日本では国の予算は非常に詳細に編成されます。各省庁が政策ごとに必要な経費を見積もり、それを基に政府全体で予算案を調整します。
例えば、公共事業や福祉事業の具体的な内容や対象人数、目標値などを予算案に盛り込みます。
そのため、国の予算には具体的な使い道が明記されており、地方自治体に分配する際にも用途がある程度指定されます。
また国が地方自治体に交付する補助金や交付金の多くは、使途が厳しく指定されています。そのため、地方自治体は交付金をどの事業にどのように使ったか、詳細な報告を求められます。
しかし、スウェーデンでは、地方自治体(コミューン)や県(ランスティング)が国の予算から多くの役割を委ねられ、教育、福祉、医療、インフラ整備などの重要な公共サービスを担っています。
また、自治体は独自に税を徴収する権限があり(主に所得税)、国からの補助金と合わせて運営されています。
これにより、地域ごとに異なるニーズに対応した政策を自由に立案・実施できます。
地方自治体には広範な権限が与えられているため、国が全体的な政策目標や予算配分を示すだけで、具体的な実行は地方自治体に任されるケースが多いのです。
そのため、スウェーデンでは国は大まかな予算をたてますが、国は地方自治体の裁量権を重視として、詳細な報告は求めず結果(成果)だけを重視します。
それにより、国は実際に地方自治体がどのように予算を利用しているかには関与しない、極度の地方分権性となっています。
こうした強い地方分権化のメリットとしては、国が一律の指導を行わないので、地方自治体ごとの独自性や創造性が発揮される環境を整えることができます。
一方でデメリットとして、予算管理が日本と比べ大雑把であり予算の使い道に対しても監視の目が緩いため、費用が膨らんでも問題視されにくい現状も引き起こしているのです。
実際の例を挙げてお話すると、2023年9月にヨーテボリ市近郊の高速道路では大規模な土砂崩れ事故が発生しました。この工事現場には国王カール 16 世グスタフが視察にくるほどの大きな災害事故でありました。
ただ2024年7月のヨーテボリ新聞によると、最終的な工事費用が3億7000万クローナ(約52億2300万円)であり、追加費用が数百万クローナ(数千万円)程度だったので、当初予算の倍とまでには届かなかったことに、スウェーデンの交通管理機関「Trafikverket」のプロジェクト責任者が安堵の声を上げています。
この記事からわかることは、公共工事費用が、当然のように当初の予算を超える前提であることがわかります。
www.gp.se
コスト重視の効率と福祉サービスの低下と新自由主義の影響
スウェーデンにおいては、予算が大雑把に見積もられていることがわかりますが、もちろん、税金は血税であり、予算を賄う増税にも限界があります。
そのため、こうした不必要なコストの増加により、市民に本当に必要な教育や医療といった予算の削減が起こなわれ、福祉サービスの質の低下につながるのです。
実際に2000年代初頭、スウェーデンの学生はTIMSS、PIRLS、PISAの国際ランキングで高得点を記録し高い学力を誇っていました。は
しかし、それ以降学力の低下が続いており、最新の2022年のPISAの結果では、すべての科目で10位以下にランクされ、総合では15位となっています。
医療サービスもまた高いものではなく、専門医の診察には早くて2〜3週間、通常2〜3カ月、場合によっては数年待ちの状況です。
現在のスウェーデンでは社会に不可欠な福祉サービスの低下が顕著に現れているのです。
この背景には、1990年代から世界で広がった新自由主義の影響をスウェーデンも強く受けたことがあります。
これによりスウェーデンでは公共サービスの民間委託が進み、利益第一主義が浸透しました。
しかし、日本のように費用削減が徹底されるわけではなく、政府や地方自治体での予算管理がどんぶり勘定であるため、予算の浪費が続いているのです。
現在のスウェーデンでは資本主義が過度に浸透していることで、国民の実質的な福祉よりも、経済的な利益が重視される状況が顕著に現れています。
ただこれはスウェーデンに限らず、他の西欧諸国でも同様な状況となっています。
「ゆりかごから墓場まで」という言葉がうまれたイギリス福祉でも、長年の予算削減で、医療サービスの質低下、人員不足、待ち時間の長さなどが問題視されています。実際にイギリス人の知人は、イギリスもスウェーデンと同様、長い医師の診断待ち状況が起きていると話していました。
www.dlri.co.jp
西欧中心主義の世界構造とグローバル・サウス問題
ただ西欧諸国では、もし税金を引き上げたりサービスを削減したりしても問題が解決しない場合、日本のように国内の構造改革を強く推し進めることを優先しているわけではありません。
西欧諸国の多くは世界の中心となる先進国であるため、経済力や政治、また軍事力を通じて世界のシステム自体を作り変え、自身に有利で利益を得る仕組みに変更することができるのです。
こうした世界の構造から西欧諸国を中心とする先進国は、アフリカやラテンアメリカ、アジアのグローバル・サウスと呼ばれる国々にその負担を転嫁することで成り立ち、現在の先進国の生活水準を維持しています。
現在、世界全体としては経済は成長を続けているにもかかわらず、西欧諸国を中心として構築された現在の世界の制度の下では、アフリカなどグローバル・サウス諸国における深刻な貧困が一向に改善されないという大きな矛盾を抱えているのです。
こうした話を聞き、中には信じられないと思う方もいるかも知れません。
しかし、近年ではこれが「グローバル・サウス問題」として世界的にも明るみになり始めており、貧困問題、人権問題、環境問題などにおいて多くの議論が巻き起こっています。
しかし、それでもまだまだ西欧先進国が中心の世界構造の中では、この問題と矛盾に対し真っ向から改善を呼びかけることは難しい状況となっています。
ideasforgood.jp
このように、スウェーデンの街中の工事に見られる非効率性は、根本的に日本とは大きく異なる価値観の表れです。
またあまりにも異なる考え方であるため、一般的な日本人としては、西欧の考え方を十分に理解したり、それに基づく世界構造を理解しようとすることが難しくあります。
ただ、こうした利益重視の考え方や、西欧中心主義の世界の構造は、グローバル・サウスの国々での貧困や格差を生み出し、さらに多くの問題や矛盾を生み出している現実もあるのです。
しかし、こうした問題や矛盾は日本のメディアで報道されることはまずありません。
kon-51.hatenablog.com
その理由の1つとして、日本が西欧諸国の一員として平和を維持していることがあります。
一例として、唯一の被爆国でありながら核の傘下にあるためアメリカには対峙できず、核兵器禁止条約に参加しない日本の状況をみれば、一目瞭然ではないでしょうか?
www.nhk.or.jp
現在、ウクライナ戦争、イスラエル戦争など多くの戦争や紛争が勃発し多くの犠牲者が出ています。また世界には多くの不平等や国家間どうしでも大きな格差が存在しています。
しかし、こうした世界の不平等や、本当の意味での持続可能な発展や真の平等、福祉を実現するためには、現行の世界構造を理解し、社会・経済システムそのものの見直しが不可欠です。
しかしこれは個人はもちろん、1つの国家レベルで変革できる課題では決してありません。
ですが一人でも多くの人がこの現実を認識することで議論が生まれる、世界の変革の兆しとなることができるのです。
このブログでは細かいところまでの説明ができませんが、拙書『 北欧、幸福の安全保障』ではさまざまな例を使いこのことを詳述しています。
何かしらこの記事や書籍が少しでも参考となり、より良い社会の実現に役に立つことができれば幸いです。
リンク
このような情報を多くの方に知っていただくために、この記事をシェアしていただけると幸いです