スウェーデン 福祉大国の深層 続報!

『スウェーデン 福祉大国の深層』を水曜社より商業出版(政府刊行物)して頂けました。読者の方からの要望を頂きスウェーデンの時事ニュースを主な内容とし、日本にも役立ち社会貢献にもつながるようなブログを記させて頂きます。

スウェーデン「産学官の国家構造からみたコロナ政策 後半(再アップ)」

 

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kon-51.hatenablog.com

産学官一体型の国家構造

現在、高齢者施設での感染拡大の原因をもう少し深く考えてみると、スウェーデンにおける国の構造に問題があると考えられます。実はスウェーデンは他の先進国とは少し違い産・官・学が一体となっている特殊な国の構造がある国です。

 

簡単にスウェーデンの国の構造をイメージするために、日本の原子力村ムラを例えにだし説明します。日本には原子力村という原子力発電を巡る利権によって結ばれた、産・官・学の特定の関係者によって構成された特殊な社会的集団があります。

 

(知恵蔵より) 

kotobank.jp 

2011年の福島第一原子力発電所事故により、原子力を巡る産・官・学の癒着や閉鎖性がマスコミなどによってクローズアップされました。

 

マスコミ各社からも、原発批判勢力とは無関係に安全性や経済性にわずかでも疑義を示しただけでも、論難を浴びせてムラからの放逐を図るなどのムラの傾向が指摘され、原発の安全性確保を脅かす結果につながったのではないかとの批判があります。

 

そのためメディアの中では電力会社の非難がタブーとなっており、電力会社へ非難しずらい構造となっています。

 

また原子力反対派の原子力学者は、京都大学小出裕章准教授のように異端者とされてしまうのです。

 

2012年3月8日に放送されたNHKスペシャル『3.11 あの日から1年調査報告 原発マネー~"3兆円"は地域をどう変えたか~』によれば、原発誘致で資金を得る地方自治体や住人も、原発は反対であるものの一旦誘致されてしまえば、自治体の行政サービスがこの原発マネーに深く依存してしまう現実があるため、反対の声を唱えることはできずらい構造があるとのことです。これが日本における原子力ムラの構造です。 

NHKスペシャル | 3.11 あの日から1年調査報告 原発マネー~"3兆円"は地域をどう変えたか~

 

またスウェーデンも日本の原子力ムラと似た構造があります。ただスウェーデンでは一部の自治体だけではなく、国全体がこの原子力ムラと似た国家構造となっていると考えられます。 

 

1つの例としてスウェーデンは平和主義を唱えることが多く、平和のイメージが強い国ではないでしょうか。

 

しかし2014年のアメリカのビジネス誌ビジネス・インサイダーによれば、人口当たりにするとイスラエル、ロシアに次ぐ3番目の武器輸出額であり、武器輸出総額でも世界で11番目につける軍事輸出国家です。そして国内で約3万人が軍事産業企業で雇用されているとのことです。

 

www.businessinsider.com 

スウェーデンにおける軍事産業の歴史は長く、1600年代前半から本格的に確立されています。そして軍事産業が大きな産業として成長しており、その軍事産業を軸として多くの産業が成り立っています。

 

これを読まれた方の中にはスウェーデンの軍事輸出費は、総輸出額と比較し1%にも満たないという方もいるかもしれません。しかし軍事産業はデュアルユース(軍民両用技術)が進んでおり、軍事技術からその他の多くの産業や研究分野への技術的なスピンオフ効果があります。

 

そして軍事開発と生産に投じられた投資額に対して、2.6倍の波及効果があるとも言われているのです。そのため軍事産業スウェーデンの経済に与える影響は非常に大きいのです。

 

ただスウェーデン人でもスウェーデン軍事産業について詳しく知る人はあまりいません。その理由の1つとして、日本の原子力ムラがメディアで報道されないのと同じように、スウェーデンにおける巨大な原子力ムラと似た構造の中では、スウェーデンのメディアも大きく軍事産業の実態を真っ正面から報道することはしないと考えられます。

 

その理由として共テレビSVTの理事会は与党・社会民主党員が多数在籍しています。多くの国民は最も信頼するメディアに公共テレビSVTを挙げています。

 

しかしSVTは構造上政府擁護の報道になりやすい傾向があります。そのため多くの国民はスウェーデンの産官学一体型の国家構造についてあまり知る人は少ないと考えられるのです。また知っていても、この国家構造から得る利益を捨ててまでこの構造を非難する人は多くはないはずです。

 

ただこれを非難するスウェーデン人もいます。

今回の政府のコロナ対策において、ウプサラ大学の医学生化学ビョルンオルセン教授のように「今すぐ社会を閉鎖せよ」と声をあげ、政府のコロナ戦略を非難している人もいます。しかしこうした巨大な国家構造の前に反対派の意見が世の中に広まることはあまりありません。

 

産業界の強い影響力

産官学が一体化となったスウェーデンの国家構造ですが、その中でも産業界は非常に強い影響力をもっています。スウェーデンのビジネス・産業の研究を専門とする民間独立財団IFNの2011年レポートにおいて、スウェーデンでは産業界の力が非常に強いことが記されています。 

 

www.ifn.se

そのため産業界から強い影響を受けた政府や公衆衛生庁が、企業保護を優先した経済重視のコロナ対策に舵を切ったとも考えられるのです。企業利益保護重視し経済主体のコロナ戦略のもと、現場への指導方針やガイドラインがもうけられたと考えられます。

 

そして当局の指示に従う必要をせまられ組織の1つである病院や高齢者施設は、必要な人員も確保できず、コスト削減が迫られたと考えられるのです。また当局による戦略のしわ寄せが、自身が感染するかも知らない不安の中、必死で働く医師や看護士、介護士などの現場の方々に大きくのしかかってしまっていると考えられます。

 

2020年5月1日の公共テレビSVTによれば、ストックホルムの病院で高齢者を集中治療室に送らないガイドラインの存在が報道されました。ただ病院や現場の方々は当局の指示に従っただけのはずです。

 

www.svt.se 

また高齢者施設において介護者がマスク未使用で感染が広がった件も、介護者がマスクを意図的に使用しなかったわけではなく、公衆衛生庁がマスクの使用はコロナ感染防止にならないしいたため、高齢者施設で働く介護者も当局の指示に従っただけのはずです。

 

現在スウェーデンでは多くの高齢者の死亡者がでていますが、こうした事態を招いているのは現場の方々に問題があるわけではなく、政策を打ち出している政府や公衆衛生庁に大きな責任があります。

 

さらに深く追究すると、具体的なコロナ規制を特にもうけず、経済・企業保護重視政策に舵を切ることになった背景には、スウェーデン特有の産官学一体の国家構造、中でも産業界の力が非常に強い国の構造が起因しているとも考えられるのです。