スウェーデン 福祉大国の深層 続報!

『スウェーデン 福祉大国の深層』を水曜社より商業出版(政府刊行物)して頂けました。読者の方からの要望を頂きスウェーデンの時事ニュースを主な内容とし、日本にも役立ち社会貢献にもつながるようなブログを記させて頂きます。

スウェーデン「パルメ元首相殺人事件:Netflexドラマ『疑わしき殺人者』への強い批判」

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パルメ元首相殺人事件:Netflexドラマ『疑わしき殺人者』への強い批判

日本ではあまり知られていないかもしれませんが、1986年ストックホルムの路上でスウェーデン首相在任中のパルメ首相は、黒いオーバーの男によって拳銃で2発を撃たれて射殺されました。

 

パルメの妻の目撃証言によって事件後に容疑者としてスウェーデン生まれのクリステル・ペターションが逮捕され、地方裁判所終身刑となりましたが控訴審では妻の証言の信憑性が疑われるとして無罪となりました。その後ペターションは2004年に頭部の怪我によって病院で息を引き取りました。

 

またソ連国家保安委員会(KGB)が暗殺の情報を事前に掴んでいた可能性があるとスウェーデンの新聞等で報じられもしましたが、KGBはこれを否定しました。

 

長い間犯人がつかまりませんでしたが、2020年6月10日検察は暗殺の最重要容疑者として、パルメの左派政策に強く反対していた広告コンサルタントであるスティグ・エングストロムの名前を公表しましたが、同容疑者は既に死亡しているとして、パルメ首相の捜査を打ち切ったと発表したのでした。

 

スティグ・エングストロムは最重要容疑者でありますが、犯人であるかの確証はないため、このパルメ元首相の殺害事件は35年経ちましたが、迷宮入りの事件となってしまったのでした。

 

https://headtopics.com/images/2020/6/10/mailonline/sweden-to-reveal-results-of-1986-olof-palme-murder-investigation-1270607699395465216.webp

 

Netflexドラマ『疑わしき殺人者』

そうした中、ネットフレックスで「疑わしき殺人者(Den osannolika mördaren)」というタイトルで、パルメ元首相の殺人事件経過を追ったドラマが作成されました。

疑わしき殺人者 | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

 

あらすじは

スウェーデンの首相オロフ・パルメ暗殺事件の容疑者とされたスティグ・エングストロム。大胆不敵な態度、運の巡り合わせ、警察の混迷などが相まって、死ぬまで正当な裁きを免れたことで知られる。容疑者を目の前にしながら、警察はなぜ彼を取り逃したのか? 未解決事件の仮説に基づくドラマ。 

 

dramanavi.net

youtu.be

 

ただこのNetflexのドラマは現在スウェーデンで物議を呼んでいます。

それというのは仮説ドラマといいながら登場人物は実在する人の名前を使っており、事実と異なる点もあり、実名を挙げられた人たちから批判を受けているのです。

 

このドラマの中心となるスティグ・エングストロムはパルメ首相を殺害した最重要容疑者ですが、すでに死亡しており本当にパルメ元首相を殺害したか現在もわかっていません。

 

しかしこの仮説ドラマではスティグ・エングストロムが本当にパルメ元首相を殺害したか不確かにもかかわらず、あたかもパルメ首相を殺害した犯人のように描写されています。

 

そのため11月10日のスウェーデン共テレビSVTの記事では、スティグ・エングストロム元妻や他の実在する登場人物もこのNetflexドラマに対して抗議を行っていると報じています。

 

ドラマに実名があげられているウルリカ・グレーサ・リッドベリ氏は、ドラマの中で「武器のコレクターの娘」と呼ばれています。 リッドベリ氏はドラマの5話目を見ましたがその表情は厳しいものがありました。

 

ドラマで彼女の父親は、スティグ・エングストロームに対し意地悪な大人のいじめっ子として演出されています。

 

「お父さんの描写についてどう思いますか?」というSVTの質問に対し、

悲しくなります。皆さんは私の家族について話ができ、すべての人々がそうできます。しかし私の父は本当に意地悪だったのでしょうか?

そんなことは一度もありません!

父は一種の暴君、世界レベルの意地悪な人のように描かれています。

父はそのように振る舞ったことは一度もありません-私たちの母親に対しても、彼の友人に対しても、誰に対してもありません。

厳格であることは、意地悪であることと同じではありません。

とウルリカ・グレーサ・リッドベリ氏は語っています。

 

ウルリカ・グレーサ・リッドベリ氏は、ドラマで父親もしくは母親が「武器コレクター」と呼ばれている描写も認めていません。

 

また彼女が以前「スティグおじさん」と呼んだ男への描写も(正しく)ありません。

シリーズで描かれているこの男性(スティグ)は別人です。スティグは素晴らしかったです!

スティグは(ストックホルムの町の)シグテューナに行きました:

そこでは彼は行儀作法を知っていました。また社会的にも有能でした。私が知っているスティグの内外のパズルを組み立てると、答えとして誰かを殺害する人となるのでしょうか?いいえ(そんなことはありません)

とウルリカ・グレーサ・リッドベリ氏は語っています。

 

kon-51.hatenablog.com


元妻:「私への個人的な攻撃」

ドラマ「疑わしき殺人者」で重要な役割を果たしているのはスティグ・エングストロームの元妻です。

VTが元妻と話をしたとき、彼女はドラマを視聴していません。彼女はカメラの前でのインタビューも受けたくもなくこのドラマに関わりたくないことがみてとれます。

 

スティグ・エングストロームの元妻は、

これは私に対する個人攻撃です。私の実名を使っています。 これは36年前の話です。不条理です。いずれにしても彼ら(制作者)は非常に大きな間違いを犯したと思います。

と語っています。

 

弁護士に相談して考えました。しかしおそらく悲惨なことになります。とてもお金がかかります。ただこれはほぼ犯罪的なものだと思います。

とスティグ・エングストロームの元妻は述べています。

 


共犯者として提示

このドラマでは取り調べよりわかった事実というより、スティグの元妻はこの殺人や殺人へのスティグの関与をもっと知っていると解釈され描写されているようです。

またスティグの元妻の名前が公衆にさらされたのもこのドラマが初めてのことでした。

 

ドラマ内で「武器コレクターの娘」と呼ばれるウルリカ・グレーサ・リッドベリ氏は、

スティグの妻は共犯者として描かれています。私の世界で-他の多くの人でもそう願っています-それは完全に不条理です。このようにスティグの妻を描写することがほぼ犯罪であると私が考えている以外は。

と語っています。

 

私たちにはまだドラマで描写されたような去った人や生きている人々の小さな地域社会があります。ただお金をかばんにたくさん詰め込んでもNetflixのような巨大企業と戦うことはできません

 

SVTの質問に対しNetflixは次のように書いています。

スウェーデン最大の国家的トラウマの1つに関連する理論をドラマ化することは困難です。

また一部の登場人物のイメージがすべての人に共有されているわけではないという事実を尊重しています。

このドラマはトーマス・ペッテルソン著書「ありそうもない殺人者:スカンディアマンとオロフ・パルメの殺害(Den osannolika mördaren: Skandiamannen och mordet på Olof Palme)」に基づいており、各部分に関連して解明できるような事件解決策の提案が目的ではありません

 

www.svt.se

Netflexはトーマス・ペッテルソン著書に基づいたドラマだから、Netflexには非はないといっているようにも聞こえます。

 

 

メディア・社会構造の問題点

私もこの仮説ドラマをみましたが、あくまで容疑者の1人であるスティグ・エングストロムを殺人犯のように描写して、世界でも有数のネット配信会社Netflexがドラマ化して世界中で放映して本当によいのかと考えながら見ていました。

 

Netflexはアメリカの企業ですが、監督スウェーデンとフランスの両親のもとに生れたシャーロット・ブランドストーム監督スウェーデンで有名なコメディアン、ロバート・グスタフソンです。

 

パルメ元首相殺人事件は未解決の事件で謎が多く真相を究明するようなドラマを制作したい気持ちはわかりますが、あくまでスティグ・エングストロムは容疑者であり犯人と確定されているわけではありません

 

にもかかわらず一般人々の名前を実名でドラマ化し世界各国で放映しており、実名でさらされた人たちの名誉を大きく損害しています。

 

世界へも弱者・少数派保護や人権を重んじると謳っているスウェーデンですので、スウェーデン人の監督もパルメ元首相殺害事件の真相を描きたいならば、あくまでフィクションドラマなので実名など使用せず偽名を使うなどし、実在する人々に配慮するべきはずです。

 

またこの事件での大きな問題は、国の首相が殺害されたにもかかわらず、警察内部の対立などで36年間も犯人を捕まえることができなかったスウェーデン警察に問題があるはずです。(ドラマの中にも警察内部の対立が描かれています)

 

そのため仮説ドラマにも関わらず実名を使用し一般人の名誉棄損するNetflexドラマ「疑わしき殺人者」は社会的弱者救済を掲げるスウェーデンの考えに反したドラマ制作され放映されたように感じます。(Netflexはアメリカの会社です)

 

また商業利益を目的とする巨大企業Netflexが個人の名誉を棄損しながらも放映できる、現在のメディアや社会構造にも大きな問題があるように感じてしまいます。

 

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